映画『カウンセラー』8時間労働と契約書②

8時間労働ルールに関して

準備、撮影の実質労働時間を8時間。食事休憩1時間。

「労働時間」を集合から撤収までとした。

時間超過した場合は1時間につき1500円のオーバーチャージを払う。

僕自身がそれなりに撮影現場で働いていて思ったことであった。

大前提として撮影の仕事は楽しいし大好きだ。

一つの作品に皆で取り組む事はとてもやりがいのある仕事だと思います。

しかし

① 朝4時に起きて、0時に帰宅する事もしばしば。毎日ヘロヘロ

② この生活に自分の時間はどうなってんの?と思ったこと。

③ 飯休憩が30分未満の『食ったら再開』が大嫌いだったこと。

④ 終わり時間にルーズだが朝の開始時間にはとても厳しいことに疑問を感じたこと。

まぁ全てがそうであるということもありませんが。

圧倒的少ないとも言い切れない。

そもそも睡眠時間が3,4時間といった状態で上質なパフォーマンスは発揮されるのか?疲れてお借りしてるロケ地の壁を破壊したり、機材を落としてしまったり(そして自腹で弁償したり)、集合時間に寝坊して自腹タクシーで現場に向かったり。それらを個人の責任と言いきれるのか?

勿論、翌日も撮影なのに朝まで酒を飲んで睡眠不足の人は論外ですが

作品の質向上のためには、しっかり休んで、翌日の準備をして、自分の生活のこともちょっと考える時間がある。

そんな環境が理想だなと僕は思います。

という完全なるワガママ

実際やるとなるとでてきた課題と問題点

① そもそも作品が面白くないと言い訳になる

② 始業時間、終了時間、移動時間をどうするか

① に関して

見る人にはその作品が何日で何時間で撮ろうと関係ありません。

一番大事なのは作品が面白いかどうかで、どんな高尚な思想や主義があってもそれを言い訳に作品を語ってはいけないのではないかと考えます。

その点に関しては、酒井さんの人間力?監督力を信じていたので、提案しました。

(基本、彼が1テイク目でOKを出す事。粘らない事。現場に経つ頃には100通りくらいプランを考えている事。それが99くらい裏切られる事。「えー、これで大丈夫かな?って思っても最終的には絶対面白いものを完成させる所。彼をずっと観察し続けたので大丈夫だと信じていました。)

さて、男が男を褒めることほど気持ち悪いものはありませんね

とはいったものの当然8時間で撮影というのは結構大変なことなので、撮影当日はほぼ撮るだけ。な形になるよう

酒井さんと話し合ってリハーサルを3日ほど取ることにしました。

(当初はリハーサルは1日だけの予定だった。)

全日、実際のロケ地でのリハーサルです。

カウンセリングルーム2日、アケミの家1日

1日目は本読みと簡単な動きを

2日目は実際に机や椅子など美術を入れて動きやカメラアングル、仕掛けの位置などを確認。

3日目が別ロケ地で動線やアングル、仕掛け確認

酒井さんが見つけたロケ地の費用が安価だったこともありますが、自主制作規模にしては贅沢。自主制作規模だから可能な贅沢な時間であったのではないかと思います。

撮影日に関しては1日撮影、撮休、2日撮影、撮休、3日目、4日目撮影というスケジュールでした。

前作RIPからしばらく時間が経っていること。初めてのスタッフが多いこと、極度の人見知りの酒井さんがどんな感触なのか軌道修正を微調しながら臨んでもらいたかったからです。

撮影現場で仕事をしていて、つねづね疑問な事として。

「芝居」が大事と言う割には、はじめて入った場所でパッと芝居をしてパッと撮影する。時にはああでもない。こうでもない。とその場で演出会議が始まります。

人を楽しませる「エンターテイメント」とはそんな思いつきの安易なものなんだろうか?

仮に本当に「芝居」が大事だというのならば、その構築に、見せ方にもっと時間と手間、創意工夫する準備が必要なのではないか。と

という事で事前に現地でリハーサルをすることによって監督の酒井さん、撮影の川口諒太郎くん、俳優部の方々から色んな意見やアイディアが出て作品が豊かになる時間を確保することの方が、現場で追い詰められて悩むよりよっぽど健全な作品作りなのではないか。となりました。

② に関して

今まで照明、ヘアメイクがいるという体制で撮影したことのなかった僕たちは支度時間や照明のセッティング時間を考えていなかった。というか見込みがわからなかった。

照明の西山竜弘さん、ヘアメイクの久津見さんに相談して、一斉スタートの準備開始、段取りの際に一旦メイクを中断してもらう等、柔軟に対応してもらいました。やはりプロは凄い。

物件の使用可能な時間帯、季節など複数の要素から実際のナイターで撮影することは困難だったため、各部署と相談して3日目に遮蔽をしてナイターシーンを撮影。デイシーンの撮影を4日目に撮影することとしました。

「労働時間」を集合から撤収までとしていたので、3日目と4日目のカウンセリングルームを繋げることで、ロケ地に機材を置いたままにして撮影修了。3日目の撮影後のばらしを無しのスケジュール にした。

移動時間に関しては当初は1日1物件だったので全く考えていませんでした。

ところがコロナの問題でロケ地が使えなくなり現場移動することになりました。これは正直かなり頭をかかえた。

予定していた予算に収まっていた制作費もコロナによる新しいロケ地の借用など、この頃はイレギュラーな出費が増えていて自分の中での処理能力のキャパが限界でした。

元来、僕はセコイ人間なので

移動はいいんじゃない?移動飯にしちゃえば?という悪魔の囁きがありました。が、移動だろうがなんだろうが時間を拘束している以上同じように考えなければいけない。となりました。

どの段階であったか定かではありませんがこの契約書を擦る前に弱気になった僕は酒井さんに「やっぱり10時間にしようか?」と尋ねました。

酒井さんは「いや、このままでいい」と即答。なんてやつだ。

まぁ、せこせこ安牌を踏んでも面白くないし、転ぶならハデな方が面白いか。とまたしてもやりこまれるのでした。

結果

実際のところは

実撮影日4日のうち8時間を守れたのは1日だけでした。

1日目1.5時間オーバー。

2日目8時間内で撮影

3日目0.5時間オーバー。

4日目1.5時間オーバー。

計3.5時間の時間超過でした。

他にも、

俳優部はリハーサルのギャランティは時給計算にしてもらう。

リハ、準備、撮休の打ち合わせに参加するスタッフの人件費は食事代だけ負担。

1日目は昼食時間に酒井はエキストラと打合せしていたこと。

4日目の昼食時間に、僕が暗幕外しをしたいと言って酒井さんと2人でやったことで、「それではスタッフが結果休みにくい」と照明の西山さんに後日、呑みの席で注意を受けた。

など大層なことを掲げ「健全な撮影」を試みたものの、現実にはまだまだ至らない部分の多い結果となりました。

反省

今後、同じことをしていくのであれば

事前の準備段階にかかる時間=経費の計算

1日の撮影分量を減らすなどの余裕ある見積もり

その分増えることになる日数の見積もり

その分、拘束する人たちの人件費などの見積もり

などをもっと注意深く考えていかなければいけません。まぁ要するに「もっとお金がいるよね。」という話です。今後の製作の資金集めの重要な理由です。

僕らは別に業界の労働改善を掲げているわけではないし、イデオロギーがあるわけでもありません。ただシンプルに「作品」が良くなるための仕組みと自分達の筋を通していきたい。と思うだけです。

なのでこの契約書。8時間労働ルールは

【仕事ではない。あくまで趣味】という僕らの作品作りのスタンスにあっている気がします。

どどP

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