シナリオ以外の実生活においても、運命を感じることは多々ある。全ての偶然が、今というものを生み出す必然である確信。僕は人に恵まれる運があると信じいているが、それもかなり楽観的に運命といった価値観で、これまでなんとかなってきた思いがあるからだ。しかし、それは当然で、いつだって振り返ることができるのは、先に広がる選択肢ではなく、選ばれてきた過去なのだから。来た道をなぞってみて、この足元に続いていると見て取れるのは当たり前なのだ。
ところで、シナリオもまるで同様。シナリオの場合、書く段階で登場人物たちと一緒になぞっていく時間感覚も無くはないだろうが、むしろ次の展開に向けて逆算も意識的・無意識的にしている。(自分で作る際の個人の思いで言うと、すんなりと展開に向くようにするよりも、むしろ矛盾するような動きでもって、結果展開を導くのがベターだと思っている)
かつ、無駄なことを物語上描くことはしない。しぜん、そこには「運命」が現れることになる。全ての偶然が、登場人物たちを導く。
もう10年以上前、どんな文脈だったか忘れてしまったが、一緒に映画の話をしているときに、篠崎さんは、『ドイツ零年』(1948,ロッセリーニ)について、「終盤に教会の鐘がならなかったら、少年は死ななかったかもしれない」と言ったことを覚えている。僕もまったくその通りだと思う。そして、それこそがこの映画の見事な所だろう。何か、必然的な結びつきに一見思えないことが、突発的に見える行動でさえ導き出す「運命」という装置になっている、それがハッとさせる見事な物語の在り方だろうと思うからだ。物語は、というか殊更映画というのは、観客が振り返る作品だと思う。上映時間が小説を読むほど長くはなく、制作コストの高さと鑑賞の飽きやすさから、基本その物語に置いて必然的な事しか描かれないという凝縮されたものになる。観終わったそばから、観客はお終いから逆算して、劇中のあらゆることを振り返る。もし実人生で死ぬ間際、はっきりした思考を保てていたら、自分の人生のあらゆる偶然は、必然だったと確信するはずだ。(単調な例を挙げれば『スラムドッグ$ミリオネア』(2009,ダニー・ボイル)は言うに及ばず…)
さて、全ての劇映画は「運命」を描いているが、その表現方法は多岐にわたる。
・色々な人の思惑の果てに起こる群像劇
・『「ファイナル・デッド~」シリーズ』(2000~)のように、逃れられぬ超自然的なドミノ倒し
・観客にしかわからない必然
黒沢清さんは篠崎さんと対談『黒沢清の恐怖の映画史』(2003,青土社)だったと思うが(どこにしまったかわからず、読み返せないが…)たしかエドガー・アラン・ポー原作の『恐怖の振り子』(1961,ロジャー・コーマン)だかなんだかの話の延長で、逃れられない機械的な恐怖について、お2人は話していたのではなかったか。その流れでCUREのカットしたシーンとか、そんな話をしていたような覚えがある(間違っていたら申し訳ない)。同じころ出版だったか、やはり黒沢清さんによる大寺眞輔さんの対談(だったと記憶しているのだが、本がどれだったか失念してしまった…)で、『回路』(2001,黒沢清)での灯油容器の蓋が転がっていって、幽霊に行き当たるシーンについて、たしか黒沢さんが「運命」といったような言い方をされていた気がする。逃れられず、自動機械のように、導かれる運命。シナリオは運命であり、それは逃れられない恐怖、実生活でいずれ行きつく死とも連想で繋がっていく。
「人々の思惑だけで起こる運命」は、木ではなく森全体を見ると、科学的なニュアンスが強くなって「社会」ということにもなるだろうけども、『回路』などのように「人間以外の無機質なものも含めてに促される運命」になると、そこに超自然的なニュアンス、より「導かれる」感が増し、科学ではなく物語的運命度が上がる。ま、「運命度」なんて言葉は無いから勝手に作ってしまったが。
話は変わって、「呪い」も、実のところ運命と同じではないだろうか。原因から結果が起こるわけだが、結果から原因を推察することで、科学も、呪いも、理論も陰謀論もできている。
最近見直した『私はゾンビと歩いた!』(1943,ジャック・ターナー)でも、人形と精神病の妻との対比が描かれるのだが、その因果関係が結ばれるのは、パラレルな編集と観客の推察の中だけであって、物語上の真実がどうかはついにわからない。セリフと編集による暗示から、点と点を線に結ぶのは、あくまで観客の側なのだ。面白いのは、信じて恐怖した登場人物こそが呪いを実現させるという物語で、呪いそのものが存在するのか、信じることで呪いが存在しているのかを曖昧にしている事だ。
特にこの映画は、画が暗示的で、かつ音も暗示的、そのバランスが見事でどうしてこうもうまくいっているのか、設計というより、撮影時のセンスと編集センスの「運命的」マッチに見惚れる。
あの風の音、ドラムのリズム、フクロウと、影、引っかかった布、船首像に刺さった矢、巨体の男の飛び出すような目、糸と人形、その静かでゆったりとした緊張感のヤバさ。一層あの静けさを感じられるよう、いつか大きな音と画面で見て見たい。

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